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PCT出願制度

PCT application system

1.PCT出願制度の概要

1.Outline of PCT application system

(1)PCT出願ルートの特徴


PCT出願は、1つの特許庁(受理官庁)に対する一つの言語による1回の出願手続で、PCT加盟国(指定国)への多数の出願と同等の効果が得られる出願制度です。
PCT出願は、各国ごとに求められる出願様式・言語が異なる直接出願に比較して、煩雑な出願手続は不要です。

《PCT出願ルート》


PCT出願書類(国際出願様式、1言語) → 受理官庁 → A国特許庁に移行手続 
                          → B国特許庁に移行手続 
                          → C国特許庁に移行手続 

・自国の特許庁(受理官庁)に対する母国語による1回の出願手続で、全締約国への出願日を確保できる。
 (PCT出願=多数の国内出願の束)


《直接出願ルート(比較対象)》

 

A国出願書類(A国様式、A国言語)→ A国特許庁 
B国出願書類(B国様式、B国言語)→ B国特許庁 
C国出願書類(C国様式、C国言語)→ C国特許庁 

・特許を取得したい全ての国の特許庁に対して、それぞれ、指定の様式及び言語による出願を行わなければ、各国での出願日を確保できない。

(2)パリ条約との関係


特許協力条約(PCT)は、工業所有権に関する基本条約であるパリ条約の「特別の取極め」(パリ条約19条)です。 
PCTに加入できるのは、パリ条約の加盟国に限られています。
そのため、台湾のようなパリ条約に未加盟の国については、PCTルートでの出願を行うことはできません。
しかし、台湾については、世界貿易機関(WTO)の加盟国ですから、WTO加盟国間で優先権主張が認められます。
よって、日本出願に基づく優先権の主張を伴った台湾出願を行うことが可能です。

1.PCT出願制度の概要

2.PCT出願手続きについて

2.About PCT filing procedure

(1)PCT出願書類の提出先


PCT出願の手続は、受理官庁に対して行います(PCT10条)。
日本国民又は居住者が出願人に含まれている場合、日本特許庁又は国際事務局を受理官庁とすることができます(PCT規則19.1、国際出願法2条)。


(2)使用言語


受理官庁としての日本特許庁にPCT出願を行う場合、PCT出願書類は日本語又は英語で作成しなければなりません(PCT規則12、国際出願法3条)。 
なお、各国への移行段階では、各国が要求する言語による翻訳文が必要になります。
この際、パリルート出願とは異なり、原文との内容の一致性が要求されますのでご注意ください(いわゆる“ミラー翻訳”でなければなりません)。

(3)国際調査機関


日本、欧州、米国、カナダ、中国、韓国、オーストラリア等の特許庁は、国際調査機関になることができる資格を有しています。しかし、日本特許庁に提出したPCT出願の場合、日本特許庁又は欧州特許庁に限定されます。
欧米の技術水準が秀でている分野では、外国語の公知文献が欧米に偏在していることがあります。
このような場合、日本特許庁ではなく、欧州特許庁を国際調査機関とした方が、信頼できる国際調査報告を作成してくれるかもしれません。 
なお、日本特許庁を国際調査機関とする英語PCT出願の場合、日本特許庁が英語で国際調査報告書を作成してくれます。海外出願を重視して英語によるPCT出願を行いたいが、日本語の公知文献を重点的に調査してもらいたい場合には、国際調査機関を日本特許庁にすることも考えられます。


(4)自己指定の除外


PCT出願は、基本的には全ての締約国が指定されます。
しかし、PCT出願の願書において指定国から出願人にとっての自国を除外しなければならないケースもあります。
日本出願に基づく優先権主張を伴うPCT出願を行うケースで指定国に日本が含まれていると(いわゆる自己指定の場合)、日本における優先権主張の効果は国内優先権と同一に扱われます(PCT8条(2)(b))。
このため、優先権主張の基礎となる先の日本出願のみなし取下げ(特許法42条1項)を回避するためには、PCT出願の願書において指定国から出願人にとっての自国を除外しなければなりません。

2.PCT出願手続きについて

3.国際調査報告

3.International search report

(1)国際調査報告の概要


作成主体

国際調査報告書は、国際調査機関により作成されます。
日本特許庁に提出したPCT出願の場合、国際調査機関として日本特許庁又は欧州特許庁を選択できます。
但し、欧州特許庁を国際調査機関とするためには、英語でPCT出願を行う必要があります。


作成時期

国際調査報告書は、国際調査機関による調査用写しの受領から3ヵ月の期間又は優先日から9ヵ月の期間のうちいずれか遅く満了する期間内に作成されます(PCT規則42.1)。


調査内容

国際調査報告書には、新規性、進歩性に関する調査結果だけでなく、産業上の利用性や、発明の単一性等に関する判断も含まれます。
なお、国際調査報告書では、調査により見つかった先行技術文献が“X”や“Y”等のカテゴリを示す記号とともに列挙されます。
カテゴリXは、単一で新規性・進歩性を否定できるような文献に対して付されます。
カテゴリYは、他の1以上の文献との組み合わせによって進歩性を否定できるような文献に付されます。


(2)国際調査機関の見解書


国際調査機関は、国際調査報告書と同時に見解書を作成します。
見解書には、PCT出願の特許性に関する国際調査機関の考えを示したものであり、見解書を読めば、なぜ国際調査報告のような特許性の判断結果となったのかが分かるようになっています。 
なお、国際調査報告書は国際公開の対象ですが、見解書は国際公開されません。

(3)国際調査報告への対抗手段


国際調査報告書で特許性が否定されてしまった場合、出願人は、(ⅰ)19条補正、(ⅱ)非公式コメント、(ⅲ)19条補正&非公式コメント、(ⅳ)国際予備審査の請求、(ⅴ)何もせずに国内移行、の何れかで対応することになります。


19条補正

・国際調査報告を受け取った後、所定の期間内にPCT出願の請求項を1回に限って補正することができます。
 これを19条補正と呼びます。 
・すべての指定国に対して有効な補正と扱われます。 
・PCT出願の開示の範囲内で補正しなければなりません。 
・19条補正は、国際調査報告の送付日から2ヵ月又は優先日から16ヵ月のうちいずれか遅い方までに提出しなければなりません。 
・19条補正の提出先は、WIPO国際事務局です。 
・19条補正とともに、19条補正の説明書を提出することができます。
 19条補正の説明書には、補正の根拠を記載するのが通常です。


非公式コメント

・非公式コメントは、国際調査機関の見解書(WO/ISA)について反論できる機会を出願人に与えるために認められているが、PCT条約及び規則には規定がないので非公式コメントと呼ばれています。 
・非公式コメントは、PCT出願の言語でWIPO国際事務局に直接提出します。 
・国際事務局は、指定官庁からの請求があったとき、非公式コメントを指定官庁に送付します。
 非公式コメントを各国での審査に反映させたい場合、非公式コメントの翻訳文の提出が国内移行時に必要です。

3.国際調査報告

4.補充国際調査

4.Supplementary international search

(1)制度目的


補充国際調査は、平成21年1月1日に導入された新しい制度です。出願人が請求すれば、国際調査機関とは別の補充国際調査機関(SISA)から補充的な国際調査報告書を受けることができます。
補充国際調査制度の目的は、先行技術の言語の多様化を受けて、国内移行後に新たな先行技術が発見されるリスクを和らげる点にあります。


(2)作成主体


補充国際調査報告書は、補充国際調査機関(SISA)により作成されます。補充国際調査機関としての資格を有する特許庁は、WIPOのウェブサイト(※)にて調べることができます。
日本特許庁は補充国際調査機関ではありませんが、欧州特許庁は補充国際調査機関です。 
(※)http://www.wipo.int/pct/en/appguide/index.jsp

(3)請求方法


補充国際調査の請求は、WIPO提供の所定の様式を用いて、英語又はフランス語にて国際事務局に対して行います。
補充国際調査の請求は、優先日から19ヵ月以内に行うことができます。


(4)手数料


補充国際調査の請求時には、事務手続を行う国際事務局のための手数料と、調査を実際に行う補充調査機関のための手数料とを国際事務局に支払う必要があります。
補充調査手数料は各補充調査機関が個別に設定しているようですが、欧州特許庁はかなり高額(2,268スイスフラン)のようです。

4.補充国際調査

5.国際予備審査

5.International preliminary examination

(1)国際予備審査の概要


国際予備審査とは

国際予備審査とは、出願人の希望によって行われる国際段階での審査です。
国際予備審査を請求すると、新規性、進歩性、産業上の利用可能性についての特許要件を満たしているか否かの見解が記載された国際予備報告書を作成してもらうことができます。


作成主体

国際予備報告書は、国際予備審査機関(IPEA)により作成されます。
国際予備審査機関としての資格を有する特許庁は、基本的には国際調査機関になれる特許庁と一致しています。
日本の出願人が日本特許庁(受理官庁)にPCT出願した場合、日本特許庁又は欧州特許庁を国際予備審査機関として選択できます(※)。 
(※)欧州特許庁を国際予備審査機関として選択できるのは、英語で出願され、且つ、欧州特許庁により国際調査が行われたPCT出願のみです。


作成時期

国際予備報告は、(ⅰ)優先日から28ヵ月後、(ⅱ)国際予備審査の開始から6ヶ月後、又は(ⅲ)PCT規則55.2の翻訳文の受理日から6ヶ月後、のうち最も遅い日までに作成されます(PCT規則69.2)。


請求方法

国際予備審査は、国際予備審査機関に国際予備審査請求書を提出することで請求できます。
国際予備審査の請求は、国際調査報告及び見解書の送付日から3ヵ月又は優先日から22ヵ月の何れか遅い方までに行わなければなりません。なお、以前は国際予備審査の結果を利用したい国(選択国)を指定国から選ぶ必要がありましたが、現在は国際予備審査を請求すると全ての指定国が選択されたものとみなされます。

(2)34条補正について


国際予備審査を請求すれば、請求の範囲だけでなく明細書及び図面を含むPCT出願内容全体に対する補正の機会が与えられます(34条補正)。34条補正は、提出先が国際事務局である19条補正とは違って、国際予備審査機関に提出します。34条補正は、国際予備審査請求の後、国際予備報告が作成されるまでの期間内に行うことができます。
なお、19条補正とは異なり34条補正には回数制限が無いため、時間の許す限り複数回の補正を行うことが可能です。


19条補正に対する34条補正の特徴

・国際予備審査を請求しなければ補正の機会が与えられません。 
・請求の範囲だけでなく、明細書及び図面についても補正することができます。 
・補正の回数制限はありません。 
・選択国についてのみ効力が及ぶため、各国での審査対象クレームを2種類のクレームセット(34条補正の前後)から選ぶことができます。

 


(3)国際予備審査のメリット


以前は国際調査機関が見解書を作成してくれなかったので、国際予備審査を請求して見解書を入手したいという要請がありました。しかし、現在では国際調査機関も見解書を作成してくれますので、見解書を目当てに国際予備審査を請求する必要はありません。
それでも、国際予備審査には、特許取得の可能性を高めるために出願人が国際段階で以下の応答を積極的に行うことができる点で有益です。


答弁書の提出

答弁書の提出により、出願人の意見を述べることができます(PCT34条(2)(d))。
国際調査報告が不当である場合、国際予備審査を請求した上で答弁書を提出すれば、肯定的な国際予備報告書を得ることができるかもしれません。


34条補正の提出

34条補正は、時間の許す限り1回以上行えるため、国際段階で肯定的な報告書を何としても得たい場合には利用価値が高いです。また、34条補正は、選択国を適切に選ぶことで、一部の国のみに限って有効とすることが可能です。
例えば、補正要件が緩い国(JP、US等)に限って34条補正を有効とし、補正要件が厳しい国(EP、CN等)については34条補正を無効とすることができます。
あるいは、国際調査機関としての日本特許庁が国際調査報告の結果によらず独自に進歩性を判断する傾向にある先進諸国(US、EP等)については34条補正を無効とし、国際調査報告の結果を大いに参考にする傾向にある途上国については34条補正を有効とすることも可能です。


面接審査

国際予備審査を請求すれば、国際予備審査機関としての日本特許庁の審査官と面接を行うことも可能です。
書面で全てを審査官に伝えることは簡単ではありませんから、国際段階で唯一審査官と面接できる機会として国際予備審査の請求は重要です。

5.国際予備審査

6.PCT出願における救済措置

6.Remedy in PCT application

(1)優先権主張の補充及び追加


PCT出願の願書に特定した優先権主張に関する情報を訂正・追加することができます(PCT規則26の2.1)。
例えば、PCT出願時に優先権を誤って主張してしまった場合や、優先権を主張し損ねた場合に救済してもらえます。 
優先権主張の追加訂正は、原則としてPCT出願日から4ヵ月以内に行うことができます。
但し、この期間は、PCT願書に記載された優先権の優先日から16ヵ月、又は、優先権主張の追加訂正により変更される新しい優先日から16ヵ月の何れか早い日まで延長してもらえます。


(2)優先権主張の自動的な維持


優先権主張を伴うPCT出願がパリ条約で規定された優先期間(12ヵ月)を超えてなされた場合であっても、国際出願日が優先期間の満了の日から2ヵ月以内であれば、優先権主張は直ちには無効にならず、国際段階の間、優先権主張は維持されます(PCT規則26の2.2)。 
但し、国内段階においても優先権主張を有効にするためには、後述の優先権の回復の請求をする必要があります。


(3)優先権の回復請求


優先期間を徒過した場合であっても、その理由が「故意でないもの」又は「相当な注意を払ったもの」であれば、優先権の回復を請求できます(PCT規則26の2.3及びPCT規則49の3)。 
但し、日本特許庁は、国内法令との不適合を理由としてこれらの規則に関して経過措置の適用を受けており、受理官庁及び指定官庁としての日本特許庁に対しては優先権の回復請求は効力がありません。
日本以外にも、中国、韓国等の多くの国でも優先権の回復請求は認められません。
しかし、2014年4月10日時点での経過措置情報(※)によれば、米国特許庁及び欧州特許庁に関しては、優先権の回復請求に関する規則を留保していないようなので、これらの国・地域に出願する場合には検討してみる価値があります。 
(※)http://www.wipo.int/pct/en/texts/reservations/res_incomp.html


(4)欠落補充


PCT出願書類(明細書、請求の範囲、図面)の欠落要素又は欠落部分については、PCT出願後に遅れて提出し、PCT出願に含めることができます(PCT規則20.3及びPCT規則20.5)。 
但し、欠落要素又は欠落部分の補充提出により、PCT出願日(=各国での出願日)が補充提出の日まで後ろ倒しになってしまいます。

(5)引用補充


PCT出願の優先権主張の基礎となっている先の出願に欠落要素又は欠落部分が含まれていることを受理官庁が認めれば、最初に付与されたPCT出願の出願日をそのまま維持できます(規則20.6)。 
日本特許庁が本規則に対する経過措置の適用を撤回したため、2012年10月1日以降にされたPCT出願については、受理官庁及び指定官庁としての日本特許庁について引用補充が認められるようになりました。


(6)明白な誤記の訂正


PCT出願における明白な誤記については、優先日から26月以内であれば訂正することができます(PCT規則91)。


(7)国際公開の阻止


国際公開の発行準備前に国際出願取下書を日本特許庁(受理官庁)に提出することで、国際公開を阻止することができます。国際公開を免れるためには、国際公開の発行準備前にPCT出願の取下げ通知がWIPO国際事務局に到達することが条件です。
そのため、日本特許庁への国際出願取下書の提出は優先日から約15ヵ月以内に行うことが求められます。
特許庁によれば、優先日から17ヵ月を超えると、国際公開の発行準備が完了しているために国際公開を阻止できない場合もあるようです。 
なお、優先権主張を伴うPCT出願(自己指定)の場合、基礎日本出願についても出願取下書を提出することを忘れないでください。優先日から15ヵ月以内に国際出願取下書を提出すると国内優先権主張も取り下げたものとみなされてしまい、先の日本出願が公開されてしまうためです。
また、優先日から15ヵ月経過した後に国際出願取下書を提出した場合、先の日本出願は国内優先権主張の効果によりみなし取下げになるはずですが、優先権主張の無効事由によりみなし取下げにならないことも有り得るので、この場合においても先の日本出願について出願取下書を提出するのが確実です。


(8)国内移行期限や国際公開の先延ばし


優先権主張を取り下げることで、未だ満了していない期間(例えば国内移行期限や国際公開の時期)を先延ばしにすることができます。

なお、国際公開の時期を先延ばしにしたい場合、優先権主張の取下げの通告が国際公開の準備完了前に国際事務局に到達する必要があります。

6.TCP出願における救済措置
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