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EUTM・Brexitの影響

最終更新: 3月12日

 EUには加盟国全域に効力が及ぶ商標権を取得できる制度があり、これを「EUTM(欧州連合商標)」といいます。英国がEUを離脱することにより、このEUTMについても大きな影響があるため、2016年6月の国民投票以来、Brexitの行方を、緊張感をもって見守ってきました。2回の延期を経て、遂に2020年1月31日付で離脱するわけですが、予定では2020年12月31日までの猶予期間が設けられ、実務的な影響が出るのは、この日以降となりそうです。この猶予期間内に、対応を検討したり、細かい規定を確認したりする必要がありますので、BrexitがEUTMへ及ぼす影響について、分かっている範囲でお伝えしたいと思います。今後、運用が変更になる可能性もありますので、実際に手続きや管理を行う場合は、その都度、ご確認ください。

 なお、英国国内の登録商標及び商標登録出願については、Brexitの影響はありません。

 また、EPC特許出願に関してもBrexitの影響はありません。欧州特許条約(European Patent Convention)はEU加盟を前提としない条約だからです。

1)EUTM出願中の案件に対するBrexitの影響

 2021年1月1日の時点で、出願中のEUTMについては、9ヶ月以内に英国で出願手続きをする必要があります。英国での出願の内容が対応するEUTM出願との同一であると認められると、出願日及び優先日等は元のEUTM出願と同じ日となる利益を享受できます。

 また、EUTMには、EUTM加盟国内で既に同一の登録商標を保有している場合に、その利益をEUTMに取り込み、一本化できる「Seniority」という制度があります。Seniorityを主張している出願の場合、この利益も、対応する英国出願に引き継がれます。

 手続きには、費用がかかりますので、出願中の案件をお持ちの場合は、英国での使用予定をご確認の上、手続きの要否をご検討ください。


 なお、意匠について、EUTMと似た「Community design(共同体意匠)」という制度があります。Community designもEUTMとほぼ同様の影響を受けますので、出願中の案件については、英国で対応する出願手続きが必要になります。


2)EUTM登録済み案件に対するBrexit影響

 2020年12月31日までに登録済みのEUTMについては、2021年1月1日付で同一の権利が英国でも自動的に付与されます。必要な手続き及び費用負担もありません。ただし、イギリス領ジブラルタルまで保護するためには、別途手続きが必要になりますので、ご注意ください。新たに英国で付与された権利について登録証は発行されませんが、UKIPO(イギリス知的財産庁)データベースに詳細が記録されるようです。英国における登録番号は「UK009+EUTMの登録番号」となります。

 なお、対応する英国の商標権が不要な場合は、最初から権利が発生しなかったことにする手続き(オプトアウト)が可能です。ただし、英国で使用している商標でないか、譲渡・ライセンス等の契約又は訴訟等に係る商標でないかをよく確認する必要があります。


3)更新手続きに対するBrexitの影響

 EUTM登録済みの案件については、対応する英国の商標権が付与されますので、今後はEUTMと英国の商標権、両方の更新管理と手続きが必要になります。英国で付与された商標権の更新期限はもとのEUTMと同一の日です。

 2020年12月31日以前に更新期限を迎えるEUTM登録については、EUIPO(欧州連合知的財産庁)への手続き及び料金の支払いをすれば問題ありません。

 一方、2021年1月1日以後に更新期限を迎える登録については、2020年12月31日以前にEUIPOへ手続きを行っていたとしても、UKIPO(イギリス知的財産庁)にも手続き及び更新登録料の支払いが必要ですので、ご注意ください。


4)権利の回復とBrexit

 EUTM登録の更新については、その他の多くの国と同じように、猶予期間が設けられており、期限から6ヶ月以内であれば、遅れて更新手続きをすることができます。そのため、2020年12月31日以前に更新期限を迎えるEUTM登録で、更新手続きがされなかったものの、猶予期間が残っている案件については、 “満了した”英国の商標権としてUKIPOに登録されます。そして、元のEUTMが猶予期間内に更新手続きがされた場合には、対応する英国の商標権も自動的に更新されます。手続きや料金の支払いは不要です。


 EUTM出願又は登録は、何らかの期限を徒過により権利が失効してしまったとしても、失効から1年以内であれば、申請により権利回復ができる場合があります。2020年12月31日時点では失効していたものの、その後権利が回復したEUTM出願又は登録について、英国でも保護を希望する場合は、別途手続きが必要です。まず、出願中の件については、EUTM出願の権利回復から9ヶ月以内に、英国で対応する出願手続きが必要です。登録済みの件については、6カ月以内にUKIPOに権利の回復を知らせることで、対応する英国登録を付与してもらうことができます。


5)ライセンスに対するBrexitの影響

 EUTMについて登録されているライセンスは、英国でも法的な効力があります。

 登録済のEUTMについては、英国で自動的に対応する商標権が付与されますので、速やかにその旨をライセンシーに通知するとともに、付与された英国の商標権が契約違反とならないか確認することが重要です。

 なお、対応する英国の商標権について、自動的にライセンス登録されるわけではありませんので、登録を希望する場合は、2021年1月1日から12カ月以内に、UKIPOに手続きする必要があります。


6)譲渡契約とBrexit

 2020年12月31日以前にEUTM登録の譲渡契約が成立しているものの、EUIPOに譲渡の登録手続きを行っていない場合、譲渡人名義で対応する英国の商標権が登録されますので、速やかにUKIPOに譲渡の登録手続きを行う必要があります。


7)不使用取消に対するBrexitの影響

 EUTM登録も英国の商標権も、5年以上、登録商標を使用していないと不使用取消の対象となります。

 EUTM登録については、加盟国にいずれかの国で商標を使用していれば、不使用による取消の対象とはなりません。そのため、英国で使用されていないEUTM登録が多数存在すると思われますが、これに対応する英国の商標権ついては、2020年12月31日付前の英国外でのEUTM加盟国での使用も「使用」と認められるようです。2020年12月31日以前にEUTM加盟国のいずれかの国で使用していれば、すぐに不使用取消の対象となることはないようですが、今後は英国国内での使用が必要になりますので、ご注意ください。


8)Conversion手続きに対するBrexitの影響

 EUTMにはConversionという制度があります。EUTM出願が拒絶・取り下げ等になった場合やEUTM登録が一定の理由により失効した場合、3カ月以内であれば、EUTM加盟国の国内出願に変更することができる救済措置です。2021年1月1日時点でConversionの対象となっている件については、期限内であれば、英国でもConversion出願が認められるようです。


9)真正商品の輸出入に対するBrexitの影響

 EEA(欧州経済領域)内のある国で一度適法に流通した商品(真正商品)を、EEA内の別の国へ輸出しても、これまでは商標権の侵害とはなりませんでしたが、今後は注意が必要になります。

 英国からEEAへの真正商品の輸出は、原則、輸出する国の商標権者の許諾が必要です。一方、EEAから英国への真正品の輸出については、引き続き適法となるようです。

 そのため、英国からEEA内への輸出を行っている方は、各国の商標権者とコンタクトをとり、今後のことについて話し合う必要があります。


 特に影響がありそうなポイントについてお伝えしましたが、まだまだ不明な点も多く、実際の運用がはじまりましたら、現地の代理人によく確認しながら、手続きを進める必要がありそうです。今後も、重要な情報がアナウンスされましたら、お伝えしていきたいと思います。

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